さとりなあ

カメレオンみたいだなって、よく思う。

つまらない夏の日々

「好き~」「うん、俺も」「すきっ」「俺も」「ねぇ好き!」「…俺も」「きらいっ」「おれも…って、え」「くぅくんはユイのこと、嫌いなんだ…ユイはこんなに好きなのに…」

俺の彼女は面倒くさい。正直、こういうタイプの女は苦手。まるで…ええと、あ、恋愛に恋してる、そうだそれだ。愛されてる自分、可愛い(はぁと)とか思っちゃってる、若い女にありがちなタイプ。それでも俺が彼女と付き合っているのは、俺にこういう女しか寄ってこないことが原因だ。

「くぅくん聞いてるの?」キンキン響く声。やめてほしい。ついでに、部屋に二人きりなのに腕にしがみつくのもやめてほしい。邪魔だし暑いし、俺だって男だ、我慢にも限界がある。甘ったるい香水もやめてほしい。どちらかというと、俺は香水より制汗剤派だ。ネコの毛が2,3本ついてる洋服を着るのもやめてほしい。俺はネコアレルギーだ。それに、カラコンをするのも…
そういえば、恋愛に恋してるなんて表現は新しい歌を作るのに使えそうだ。いや、そんな歌詞がもうすでにあった気もしなくはない。彼女はいつの間にか支度を終え、
「くぅくんなんて、もう知らないんだから!」
ヒステリックに叫んで、俺の家のドアを大げさなくらいに大きな音を立ててしめる。
2月12日(木)の昼過ぎ、彼女は大学へ出掛けていった。ただそれだけのことだった。変わらない日常だった。

女子高で非常勤講師をやる身の俺は、大した収入も得ることが出来ないばかりか、その収入の大半を有志で組んでいるバンドに注ぎ込んでいるために、彼女はできても妻ができない。結婚したい。いや、したくない。結婚したら親は喜ぶ。でも家庭に縛られるんだろう。面倒くさい。25歳の俺に集まるのは、香水ぷんぷんのヒステリック女だけだ。それ以上でも、以下でもない。悲劇的な人生や特別な運命に憧れなくもないけれど、例えば女子高の生徒との禁断の恋愛によって生み出されるかもしれない「解雇」の文字に恐れをなした俺は、結局は平坦な人生に身を任せる。

俺の彼女は面倒くさい。

でも俺にはそのくらいがちょうどいい。身の丈に合った人生を。


そろそろ塾のアルバイトの時間だ。今日も小学生達は喧しく、明日も女子高生達は制汗剤のツンとするにおいを教室中に蔓延させる。


つまらない夏が今年もやって来た。